債権法改正「債権譲渡に関する見直し」について
近年、債権譲渡(譲渡担保)やファクタリングによる売掛債権などを活用した資金調達が、中小企業の資金調達の方法として活用されることが期待されます。
原則として債権者は、自由に債権を他人に譲渡することができます
例えば、中小企業が自己の有する現在の又は将来の売掛債権を原資として資金調達を行うことができます。
このページでは民法の一部を改正する法律(債権法改正)のうち、「債権譲渡に関する見直し」について解説します。
ここでは「譲渡人」、「譲受人」、「債務者」を以下のように説明しておきます。
「譲渡人」とは(じょうとにん・ゆずりわたしにん):債権等を譲渡した人
「譲受人」とは(じょうじゅにん・ゆずりうけにん):債権等を譲り受けた人
「債務者」とは:債権の支払いなど一定の責任、義務を負う人
債権法の改正とは
民法第三編 債権の全面的な改定
債権譲渡の改正とは →「民法第三編 債権の全面的な改定」
現行の民法は120年前にできたあと、債権法についてはほとんど見直しがされていません。
いつ以来の改正 → 明治29年以来、今回初めて大幅な改定
判例を明文化→(改正法)
実務的ニーズの高まり
債権は財産としての価値をもっています
債権者は、原則いつでもその債権を譲渡することができます。債権の売買といった方法で債権の支払日前に資金を回収することが考えられます。
債権担保の重要性
また、担保のために債権を譲渡することがあります。例えば、金融機関から融資を受ける時に、自己の売掛債権などを担保とすることで、有効な資金調達の方法として広く活用されます。
債権譲渡の利用
- 弁済前の資金化(債権譲渡)
- 担保としての方法(譲渡担保)
- 将来債権の譲渡
- 債権譲渡と相殺
現行法の問題点 債権担保を阻む譲渡禁止特約
譲渡禁止特約違反の譲渡。
譲渡制限特約の役割(現状:従来の解釈は特約違反の譲渡は無効となる)
- 譲渡制限特約とは債権の譲渡を禁止、又は制限する旨の債権者・債務者間の特約をいう。
- 譲渡制限特約が付された債権の譲渡は原則無効となります。
- 取引契約の解除のリスク(債権譲渡をしたために取引を打ち切られるリスクがある)
- 譲渡債権制限特約が資金調達を行う際の支障になっている
- 債権譲渡に必要な債務者の承諾を得られないことが少なくない
- 債権譲渡が無効となる可能性が払拭しきれない
- 譲渡担保にあたって債権の価値が低額化
債務者にとっては通常の支払いを相手方を一定にしないと実務的に難しいことがあります。
例えば、債権が譲渡された場合、債務者は問題が生じますので、一般的な取引契約書には譲渡制限特約があることが多いです。
- その譲渡が本当に成立しているか?
- その債権先は真の債権者か?
- 支払い口座の変更手続き
譲渡制約の具体例
実務上の懸念
- 譲渡禁止契約に債務者は違反、債務者(取引先)とのビジネス継続が課題
- 約款、取引慣行変更の必要性
譲渡制限特約が付された債権の譲渡が有効としても、債権者・債務者間の特約に違反したことを理由に契約が解除されてしまうのではないか?
解除ができるとすると・・・・
譲受人にとっても、解除によって債権が発生しないおそれがあるため、そのような債権を譲り受けるのは困難
→資金調達の円滑化につながらないおそれがないか?
債権の「譲渡制限特約」の効力の見直し
466条 譲渡禁止特約違反の譲渡も有効になることになります。
改正前 → 今 までは譲渡人が特約を知らないことが重要 → 紛争になりがち!
現行法では譲渡禁止特約付の債権譲渡は無効
改正後 → 対抗要件の問題となり悪意※でもOK!譲渡自体は認められる!
譲渡人が譲渡禁止特約について悪意※
※法律上「悪意」とは、ある事実について「知っていること」を意味します。
譲渡制限特約が付されていても債権譲渡の効力は妨げされない(預貯金債権は除外)
第466条(債権の譲渡性)
- (略)
- 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
- 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。(新設)
- 前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。(新設)
法務省「民法の一部を改正する法律案新旧対照条文」抜粋
債務者は、支払いを拒める(譲渡人に払ってもよい)【446条3項】
債務者の保護
弁済の相手方を固定することへの債権者の期待を形を変えて保護
債務者は、基本的に譲渡人(元の債権者)に対する弁済権等をもって譲渡人に対抗することができる(免責される)
- 譲渡制限の意思表示がされたことについて悪意・重過失の譲渡人その他の第三者に対しては、債務者はその履行を拒むこととができる。
- 譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗できる(免責される)。
譲受人に対しての手当、保護【466条4項】【466条の3】
譲受人の保護
- 債務者が譲渡人から履行の催告を受け、相当の期間内に履行をしないときは、債務者は譲受人に対して履行をしなければならない。【466条4項】(新設)
- 譲渡人が破産したときは、譲渡人は債務者の債権の全額に相当する金銭を供託するよう請求することができる(譲渡人への弁済は譲受人に対抗できない)【466条の3】(新設)
前条第1項に規定する場合において、譲渡人について破産手続開始の決定があったときは、譲受人(同項 の債権の全額を譲り受けた者であって、その債権の譲渡を債務 者その他の第三者に対抗することができるものに限る。)は、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかったときであっても、債務者にその債権の全額に 相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができ る。この場合においては、同条第二項及び第三項の規定を準用する。(新設)法務省「民法の一部を改正する法律案新旧対照条文」抜粋
改正法を解釈すると元々、契約違反にならないと考えられる。
改正法では、債務者は、基本的に譲渡人に対する弁済をすれば免責されるなど、弁済の相手方を特定することで債務者の実務上の期待が保護されている。
- 譲渡制限特約が弁済の相手方を特定する目的にされたときは、譲渡制限は必ずしも特約の趣旨に反しないとみることができる。
- 債権譲渡されても債務者にとって大きな不利益とならないので、債務者の一方的な取引の解除は、優越的地位の乱用などに当たる可能性がある。
【条文】改正法 【第466条の2】
第466条の2(譲渡制限の意思表示がされた債権に係る債務者の供託)
- 債務者は、譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては、譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託することができる。(新設)
- 前項の規定により供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければならない。
- 第一項の規定により供託をした金銭は、譲受人に限り、還付を請求することができる。
法務省「民法の一部を改正する法律案新旧対照条文」抜粋
将来債権の譲渡(担保設定)が可能であることを明記
問題の所在【第466条の6関係】
将来の債権の譲渡の可能性があることが明確でない
従来の考え方では、「まだない債権は譲れない」といったことが、ありましたが将来債権の譲渡を認めることについて明文化でされました。【第466条の6、1項】
将来債権の譲渡が可能であることを明らかにする規定の新設
- 譲渡人が対抗要件を具備したとき(「通知」や債務者が「承諾」をしたとき)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなされ、債務者は、その債務の履行を拒むことができます。【466条の6、3項】
- 債権譲渡の対抗要件が将来債権の譲渡についても適用されることが明らかになっています。(467条1項)
【条文】改正法【第466条の6】【467条】
第466条の6(将来債権の譲渡性)(新設)
- 債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
- 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。
- 前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第466条第3項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第1項)の規定を適用する。
第467条(債権の譲渡の対抗要件)
- 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない 。
- (略)
法務省「民法の一部を改正する法律案新旧対照条文」抜粋
民法改正により「異議を留めない承諾」認められないことに
債権譲渡における債務者の抗弁【改正法 第468条】
- 現行法では、債務者が異議を留めないで民法467条の「承諾」をしたときは、譲渡人に対抗することができないとして、譲渡人の側から規定されています。
- 改正法では、「債務者は対抗要件具備時まで譲渡人に対して生じた事由をもっ譲渡人に対抗することができる」として、債務者の側から規定されています。【改正法 第468条1項】
【条文】改正法468条
第468条(債権の譲渡における債務者の抗弁)
- 債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
- 第466条第4項の場合における前項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条第4項の相当の期間を経過した時」とし、第466条の3の場合における同項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。
法務省「民法の一部を改正する法律案新旧対照条文」抜粋
異議をとどめない承諾の廃止 「異議をとどめない承諾」とは?
「承諾」・・「何も言わずに債権譲渡を認めます」ということ
「異議をとどめない」・・・債務者が主張できる抗弁を放棄すること
【条文】現行法
債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
2020年4月に施工される改正民法では、この「異議ない承諾」を包括的に取り付けることが認められなくなりました。
廃止の理由
- 債務者が、対抗要件を放棄する理由がない
- 本来、対抗もいろいろ考えられますが、そのすべてを放棄するのは、債務者に厳しいのでは
抗弁の放棄について必要なら、意思表示してもらうことも考えれます。
債権譲渡の「通知」や「承諾」その文書の中に抗弁放棄の内容が入っていれば、「異議をとどめない承諾」の効果が生じると考えられます。
「譲渡債権について次の抗弁の抗弁を主張しません。譲渡された債権を弁済期にお支払いします。」
- 債権との相殺の抗弁権
- 同時履行の抗弁権
- 譲渡人に対する弁済の抗弁権
- その他一切の抗弁権
施行日後に債権譲渡契約が行われた債権譲渡は改正法が適用
原則として,施行日より前に締結された契約については改正前の民法が適用され,施行日後に締結された契約については改正後の新しい民法が適用されます。(法務省:民法の一部を改正する法律の概要 経過処置)
施行日は平成32年(令和2年)4月1日となっていますが、経過処置として一部、定型約款や消滅時効などの例外を認めていますが、債権譲渡に関しては、譲渡制限特約のある契約が施行日までと施行日後によって変わります。
債権の譲渡の原因である債権譲渡契約が基準となりますので、譲渡される対象の債権の発生時が基準とならないので注意が必要です。
まとめ 債権法改定をどうとらえるか?
債権法の改正によって、今まで判例や解釈で実務的な問題を明確にできた点では、今後の債権譲渡の利用の方法の幅が広がることになるでしょう。
取引先(債務者)、債権者にとって実務的なことがある程度スムーズにできるかもしれません。
特に中小企業にとって資金調達に有用な方法として債権譲渡が用いられることが期待されます。
民法の一部を改正する法律案「債権の譲渡」新旧対照条文については、下記のページにまとめていますのでご参照ください。