改正の要点
これまで「約款」と呼ばれてきた契約形態は、民法の意思表示や契約に関する一般的な規定が適用されています。約款のうち、一定のものについて、定型約款として特別のルールを課すことが改正の趣旨です。
ともそも「約款」とは・・・
「約款」とは、一般的には、当事者が画一的な契約を定めることを期待して準備した契約条項の総体をいう。
「約款」という用語は、企業の実務で広く用いられているが、その意味は様々に解釈によって対応されています。そこで「定型約款」という名称にて、従来の「約款」の概念と切り離して、明確にするための名称で、約款に関する規定が新設されました。
「約款」の問題点
「約款」は、保険契約、鉄道やなどの運行規約、電気・ガスの供給約款、インターネットサイトの利用規約などで多様に活用されています。
民法の原則:契約の内容を認識していなければ契約に拘束されない
民法の原則では契約の当事者は契約の内容を認識していなければ契約に拘束されないこととなっています。
契約の相手方は定型約款の条項の細部まで読まないことが通常ですが・・・
- 「定型約款」については、細部まで読んでいなくても、その内容を契約内容とする旨の合意がある。
- 明示の合意がない場合であっても、定型約款を契約内容とする旨が顧客に「表示」された状態で取引行為が行われている
このような場合であれば、契約の双方にとって不都合はありませんが、不当な条項が混入している場合もあるがあることから、顧客の利益を一方的に害するような条項は契約内容とならないようにする余地を認めることが必要となります。
約款の不安要素
大量の取引を円滑に行うため、詳細で画一的な取引条項を定めることに「約款」は現代社会では必要不可欠ですが、民法に「約款」に関する規定がなく、法的に不安定な要素があります。
- 約款の内容を相手が十分に認識していないまま契約を締結すること
- 個別の条項について交渉がされていないことから、相手の利益が害される
- 契約をするかしないかの選択の存在
- 契約の内容を認識していない場合、個別の条項が契約内容となるのか不明確
- 契約の変更に際し、相手方の承諾が得られるか
契約の対象となる相手方は、多数にわたることから約款の条項について、その内容を理解し注意を向けることが難しい場合が考えられます。
それによって、個別の条件を意味を十分に認識しないまま契約を締結することや、実質的な交渉が行われにくいことから、契約をするかしないかの選択をのみが存在することなります。
定型約款の対象となる定義
「約款」とは契約の実務において広く用いられいますが、その理解については、まちまちです。
第548条の2
【不特定多数要件】
ある特定の者が不特定多数の者を相手として行う取引
取引の主体が顧客の個性を重視することではなく、多数の取引を行う場合を抽出ための要件。例えば、労働契約は、相手方の個性を重視して行われ「定型約款」には該当しない。
【画一的要件】
その内容の全部又は一部が画一的であることが双方にとって合理的なもの
相手方の個性に着目した取引は定型約款に該当しない。同じく労働契約についても、相手方の個性に着目して締結されるので定型約款には含まれません。
【目的要件】
契約の内容とすることを目的として準備されたもの
「契約の内容を目的とすることを目的」とは、その定型約款を契約の内容に入れることを目的とすることです。例えば事業間の取引に使われる契約書のひな型などは定型約款には該当しません。
定型約款に該当するものと考えられもの
- インターネットのサイト利用規約
- 保険約款
- 鉄道やバスの運送約款
定型約款に該当しないもの
- 一方の当事者が準備した契約のひな型
- 労働契約のひな型
定型約款が契約の内容となるための要件
改正法の組み入れ要件
次の場合には、定型約款の条項の内容を相手方が認識していなくても合意したとものとみなし、契約の内容となることを明確化にされました。
- 定型約款を契約の内容とする合意があった場合
- 定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に「表示」していた場合
※電車・バスは表示が困難であるため個別の業法が適用
契約の内容とすることが不適当な内容の契約条項
相手方の利益を一方的に害する契約条項であって信義則に反する内容の条項については、合意したとはみなされないことを明確化。
みなし合意の要件とは
第548条の2(定型約款の合意)
定型約款の個別の条項の合意は以下の場合、定型取引を行うことの合意をしたこととみなされます。
1「定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき」
定型約款準備者と面談やインターネットを通じて定型約款を契約の内容とすることに合意した場合など、定型取引合意をした者が、Webページ上で定型約款を契約の内容とすることに同意する旨のボタンをクリックしてもらう方法で合意を得る場合が考えられます。
(例)「本契約には別途配布する〇〇利用約款の規定が適用されることに合意します。」
2「定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容をとする旨を相手方に表示していたとき」
定型約款準備者が相手方に定型約款を契約の内容とする旨を記載した書面や電磁的記録を提示・提供する場合など考えられます。ただし、インターネットのWeb上に定型約款を掲載しただけでは、相手に表示したとは言い切れませんので、次のような記載が必要となります。
(例)「本契約には、当社ホームページ上に掲載されている令和〇年〇月〇日時点の○○利用約款が適用されます。
定型約款の変更はどうような場合にできるか
約款では長期にわたって継続する取引では、法令の変更や市場経済や事業者の都合によって定型約款の内容をあとになって変更することが必要になってきます。
民法の原則では、契約内容を事後的に変更するには、個別に相手方の承諾をもらう必要がありますが、多数の相手方に個別の変更を合意することは難しい場合がほとんどです。
問題点
→同意がなくても変更を可能にする必要
→顧客等の相手方の利益の利益の保護
→合理的な場合に限定する必要
定型約款の変更の要件
定型約款準備者が一方的に定型約款を変更することにより、契約の内容を変更することが可能であることが明確化されました。
第548条の4(定型約款の変更)の内容
変更の要件
- 変更が相手方の一般の利益に適合する場合
- 変更が契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有及びその内容の変更に係る事情に照らして合理的な場合
周知方法
- 効率発生時期を定め
- かつ、定型約款を変更する旨
- 及び変更後の定型約款の内容
- 並びにその効力発生時期
- をインターネットの利用その他の適切な方法で周知
この周知要件は相手方の保護のために政策的な要請により定めたものです。契約の内容の変更を生じさせるためには、少なくとも相手方がそのことを知りえることが必要です。